テーマの背景と基本概念

中国での都市内移動において、タクシーとスマートフォン経由の配車サービスは、バスや地下鉄と並ぶ最も身近な交通手段の1つだ。スマートフォン決済の普及に伴い2010年代半ばから配車アプリの利用が全国に広まり、現在では都市部におけるタクシー利用の過半数がアプリ経由で行われていると交通運輸部の統計で公表されている。

初めて中国を訪れる外国人の多くは、「どのアプリを使えば安全に移動できるのか」「もし法外な料金を請求される、いわゆる「ぼったくり」の被害に遭った場合、どこに相談すればよいのか」といった不安を抱えている。中国のタクシー・配車サービスの仕組みやルール、トラブル時の対応方法を理解しておくことは、言葉や習慣の壁がある海外での移動をスムーズに行うために非常に重要だ。

中国の配車・タクシーサービスの仕組み

主な利用可能なサービス

中国で利用できるタクシー関連サービスは大きく2種類に分けられる。1つは伝統的な流しの正規タクシーで、路上で手を挙げて停車させる方式で、法令で定められたメーター制で料金が計算される。もう1つはネット配車サービス(ネット予約タクシー、通称「網約車」)で、スマートフォンアプリ上で乗車位置と目的地を入力すると、登録された近くのドライバーと自動的にマッチングし、乗車から決済までアプリ内で完結する仕組みだ。

現在配車サービスの最大手は滴滴出行(DiDi)で、全国のほとんどの都市でサービスを提供している。ほかにも、地図アプリである高徳地図(Amap)などが複数のタクシー事業者をまとめた配車機能を提供しているほか、各都市のローカルタクシー会社が独自のアプリを運用しているケースもある。

サービス運営のルールと監督体制

全ての正規タクシーおよびネット配車サービスは、全国の交通主管部門である交通運輸部および各地の交通局の監督下で運営されている。2016年に施行された「ネット予約タクシー経営サービス管理暫定弁法」により、配車プラットフォームにはドライバーの身元確認、走行ルートの記録、苦情対応窓口の設置が義務付けられている。

料金に関するルールとしては、正規タクシーは公的に検定されたメーターで料金を計算する義務があり、ネット配車サービスは乗車前に目的地までの概算料金を利用者に提示すること、需要が集中する時間帯に適用される動的価格調整(ダイナミックプライシング)による割増料金は事前に割増率を表示し、利用者の同意を得た上で注文を確定することが定められている。トラブル時の公的な窓口としては、全国共通の交通サービス監督ホットライン「12328」が設置されている。

外国人が中国で配車・タクシーサービスを利用する際に知っておくべき情報

アプリの登録・利用条件

主要な配車アプリであるDiDiは、外国籍の利用者でも有効なパスポートと中国国内で契約した電話番号があればアカウント登録が可能だ。決済手段としては、Visa、Mastercard、JCBなどの国際クレジットカードが利用できるほか、WeChat PayやAlipayに海外発行のクレジットカードを紐づけて支払うこともできる。アプリの表示言語は日本語を含む多言語に対応している。

なお、一部の地方都市や空港・駅の特定の乗降エリアでは、安全管理のため配車アプリによる乗車位置の指定が制限され、指定のタクシー乗り場から正規タクシーに乗るよう誘導されるケースがある。

よくある誤解と注意点

「中国のタクシーはどこでもぼったくりをする」というイメージを持つ人もいるが、これは規制が整備される前の過去の事例や、無許可営業の白タクによるトラブルが広く知られるようになったことによる誤解だ。現在は正規サービスを利用する限り、ルールに基づいた料金が請求され、トラブル時の救済制度も整備されている。

注意すべきなのは、駅や空港、観光地の出口で客引きを行う無許可の白タクだ。こうした車両は営業許可を得ておらず監督の対象外となるため、法外な料金を請求されるトラブルが発生しても救済を受けられない可能性が高く、交通運輸部も利用しないよう注意を呼びかけている。正規のタクシー乗り場から乗る、あるいは正規の配車アプリで手配した車両に乗車する際は、事前にアプリに表示されたナンバープレートと実際の車両が一致しているかを確認することが推奨される。

実際の利用時に発生しうるトラブルと対応方法

「ぼったくり」に該当するケース

監督当局が不当とみなす料金請求のケースには、主に以下のようなものがある:正規タクシーがメーターを作動させずに高額な料金を請求する、故意に遠回りをして通常より大幅に高い料金を請求する、配車アプリで事前に提示された概算料金を正当な理由なく大幅に超過した金額を請求する、事前に告知のない追加料金を請求するといった行為だ。

トラブル発生時の苦情申請の流れ

トラブルに遭った場合、まず車両のナンバープレート、乗車記録、レシート、支払い記録、ルートの記録などの証拠を確保する。

配車アプリを利用した場合には、まずアプリ内の注文履歴から該当する乗車記録を選び、カスタマーサポート窓口に苦情内容と証拠を提出する。プラットフォーム側が走行記録などをもとに調査を行い、不当請求が事実であると確認された場合には、超過分の料金が返金されるほか、ドライバーに対して営業停止などのペナルティが科される。

流しのタクシーでのトラブルや、プラットフォームの対応に納得がいかない場合には、全国共通の交通運輸サービス監督ホットライン「12328」に連絡して苦情を申し立てることができる。同ホットラインで受け付けた苦情は管轄の地方交通局に転送され、事実調査の上で対応が行われる。また主要な空港や駅のタクシー乗り場には管理事務所が設置されており、その場で苦情を受け付けているケースも多い。

よくある質問(FAQ)

Q. 中国の配車アプリは日本語表示に対応していますか?
A. 最大手の滴滴出行(DiDi)は日本語を含む多言語表示に対応しており、目的地の入力や注文履歴の確認を日本語で操作することが可能です。

Q. 外国の携帯電話番号でも配車アプリに登録できますか?
A. 国際版のDiDiアプリでは一部の国の電話番号で登録可能な場合がありますが、中国国内でサービスを受ける場合、中国国内で契約した電話番号が必要となるケースが多くなっています。

Q. ぼったくり被害に遭った場合、料金の返金は受けられますか?
A. 正規のタクシーまたは正規配車プラットフォームを利用したケースで、調査により不当な料金請求が認められた場合には、定められた手続きを経て超過分の料金が返金される制度があります。

Q. 流しのタクシーに乗る場合、現金は必ず必要ですか?
A. ほとんどの都市の正規タクシーはQRコード決済やアプリ決済に対応していますが、一部の地方都市のタクシーでは現金のみの決済となるケースも存在します。

Q. 12328監督ホットラインは日本語で対応してもらえますか?
A. 原則として対応言語は中国語です。外国人利用者の多い北京・上海・広州などの主要都市では、英語で対応可能なオペレーターが配置されている場合があります。

参考情報元

中華人民共和国交通運輸部 公式ウェブサイト「ネット予約タクシー経営サービス管理暫定弁法」

滴滴出行(DiDi)公式ウェブサイト 海外ユーザー向け利用案内

12328交通運輸サービス監督ホットライン 公式利用案内

高徳地図(Amap)公式サービス説明ページ